朝、アレクスとナンシーはカオスの家に行った。そこでは大変なことが起こっていた。アッシュが昨日の夜から発熱をして熱が下がらなくなっていた。ソファーベッドにアッシュは横たわっている。薬を飲ませても全く効かなかった。ナンシーは、
「お昼頃、医者に連れていこう。」
と、言った。そして、ナンシーはアッシュの頭に塗れた冷たいタオルをのせた。カオスは動揺を隠せない。アッシュは何か言いたそうな目をするが、声に出てこない。カオスの家の中は暗い雰囲気に包まれていた。
昼過ぎ、3人は食べもせず小さな病院にアッシュをかつぎ込んだ。玄関前で医者を呼んだ。医者が出てきて、4人の服装を見て言った。
「君たち、お金は持ってるのかね?病人を診るにはお金が必要だよ。」
カオスが答えた。
「今、急いで来たから持ってない。後で持ってくるよ。」
「信用できないね。他をあたってくれ。」
そう言って、医者は戸を閉めた。アレクスはいきなり戸を蹴り破った。その時、医者はワンワンに電話しようとした。電話をし終わった頃、アレクスは家の中へと乱入した。そして、医者を見つけると殴り倒した。
「お前みたいに金で人を見る奴が医者なのかよ!人の命よりも金が必要か!てめーは人じゃねー。人殺しだ!人殺しだ!」
そうして、また医者を蹴った。ちょうどその時、ワンワンが駆けつけてきた。アレクスはワンワンに捕まえられた。ナンシーは警察に頼んだ。
「アレクスが悪いわけじゃない。医者の方が悪い。アッシュを診てくれないんだよ。」
「その話は警察署で聞こう。」
4人はパトロールカーで犬小屋に連れて行かれた。さっきの医者の方はぶざまにも、他の病院に運ばれていった。
犬小屋につくと、アッシュはすぐに警察病院の方へ連れて行かれた。もちろん、カオスもついて行った。アレクスは警察署で事情徴収をうけている。
アッシュが警察病院に着くとすぐ医者の診断を受けた。そして、絶対安静と言われた。カオスは医者に状態を聞いた。医者は首を振って、
「後、1週間ぐらいだ。今の技術ではAIDSに対して、なにもできん。」
カオスは医者のえりをつかんで、
「おめー医者だろ!人殺しじゃねーよな!だったらなんとかしろよ!」
と、叫んだ。医者は何も言わず、首を横に振った。カオスは目に涙を浮かべた。医者から手を離した。カオスはアッシュのいる部屋に走っていった。アッシュにはいろんな管が突き刺さっていた。
「俺だ。カオスだ。わかるよな?」
アッシュは少し目を開きうなずいた。すると、アレクス達が入ってきた。カオスは誰にも、アッシュの寿命のことを言わないでいた。カオスはここに泊まることにした。アレクス達は、また明日来ると行って帰っていた。
カオスは、アッシュの横に寝転がり、アッシュに言った。
「お前は、俺のもんだ。死なせはしない。」
・・・・・・
次の日、もっと嫌な知らせが着いた。スティーブが死んだ。もちろん、みんな驚いた。原因は、殺人であった。ファシストに後ろから刺し殺された。そのファシストはデッドに殺られた奴の相棒だそうだ。アレクスはそれを聞いたとき何もいえなかった。2日前、みんな一緒に記念日を祝った。そして、昨日の夜、”Anarchy” でアッシュの話をして別れた。そして、今日、殺された。死体は警察署が保管している。みんな、金を持っていない。金のかかる葬式なんてできねー。だからしかたなく、すべてをワンワンにまかせた。こぎれいな墓である。何もないからである。墓石だけが、順序よく並んでいる。どの石にも名前は1つもない。スティーブも同じ名前のない四角い石の下に入れられた。そこには、仲間が集まった。みんな、石を見つめていた。何も言わずに見つめていた。アレクスは石の上に赤の油性マジックで、
”スティーブの墓 1994.12.25”
と書いた。そして、ナックはスティーブの大好きだったマイクを石の上に置き、ジャックはスティーブの皮ジャンを置いた。アレクスは言った。
「おい、スティーブ、むこうで元気にしてろよ。またいつか、お前の歌を聴かせろよ。」
墓の回りには、アッシュを残してみんな集まった。カオスはちいさい声で言った。
「スティーブ、アッシュを連れていかないでくれ。」
カオスの声に誰も気が付かなかった。カオスはみんなに言った。
「12月31日、みんなで海に行って、スティーブの追悼会をしようぜ。」
みんな賛成した。アレクスが
「スティーブのぶんも歌ってやるぜ。」
そう言った。みんな墓場を出ていく時、スティーブの墓に向かって、
「メリークリスマス!」
と、言った。そしてすぐ、カオスは病院に向かった。他の奴等は、”Anarchy” に行った。
カオスは急ぎ足で、アッシュの所に戻った。
「アッシュ、お前を12月31日、海に連れていってやる。」
そう言って、カオスは後ろを向き、涙を流さず泣いた。アッシュはちいさな声で言った。
「カオス、ありがとう。私は大丈夫。海に連れて行ってね。」
声がつぶれそうである。カオスはそれを聞いて、後ろ向きのままうなずいた。
「ちょっとトイレに行って来る。」
カオスは部屋から出ていって、廊下で泣いた。泣きおさまると中に入って、アッシュの隣のいすに座って外を眺めた。外は、夕日が照っている。
「このおもちゃみたいな大都市で、毎日どこかで人が死ぬ、まるでそれが当たり前のようにね。」
「カオス、どうしたの?」
「スティーブが死んだ。」
「スティーブが?」
「ああ。」
2人の会話は切れた。そしてそのまま、眠りについた。