第五章 街人

朝。オレが目をさますと陽はすでに窓から差し込んでいた。体を起こし窓を見ると、妹は出窓に腰をかけ外の景色を眺めていた。オレは声を出した。
「おはよう。」
妹は振り向いて言った。
「おはよう。」
妹はまた外を眺めた。オレも外を見ようと窓に近づいた。
「ねぇ覚えてる?お母さんが死んだ日のこと。あの日もこんなワタのような雲が浮かんでいたよね。」
「お母さんの話はもういいよ。それよりも、今日学校を見に行くんだろ。」
妹は窓から離れた。オレは窓の外を覗き込んだ。本当にあの日と同じ雲が浮かんでいた。母が自殺した日と同じ雲だ。
オレと妹は朝食を買いに街に出た。アレクサンダー通りにはスーパーマーケットがある。オレと妹は店に入り、パン、バター、サラミ、レタスを求めることにした。まずは肉屋だ。ショーケースの中には、様々な肉の破片がずらりと陳列されていた。その向こうに、色白で金髪のすらりと背の高い娘がいた。顔は童顔で可愛らしい娘だった。ただ、少しおかしな行動をとっているのが気になった。肉の塊をミンチの機械にかけでてくるところを眺めて微笑んでいる。全てのミンチが出切ると、次は、頭、皮、足、内臓などを取り除いた牛の枝肉の方へ向かった。牛の枝肉は足から吊るされていて、彼女は器用な手つきで解体し始めた。恐ろしいほど切れ味のいいナイフに、電動ノコギリ。彼女はまるで楽しんでいるかのようだった。
オレは彼女の前に行って、欲しいものを告げた。
「このサラミを200g欲しいんだけど。」
「こちらですね。ちょっと待ってください。」
彼女はニコリと微笑むと薄く切られたサラミを計量器の上に乗せて測った。オレは彼女に心惹かれた。彼女はきっちり測ると、サラミを紙で包み、値段を貼りオレに渡した。
「ありがとうございます。」
彼女がそう言うと、ふと我に返った。オレは彼女をじーっと見つめていたことにも気がつかなかった。何かを話しかけなければと思ったオレは質問をした。
「どうも。・・・。ところで、キミはここで働き始めてからどのくらいになる?いや、肉の解体が板についているなと思って。」
彼女は気持ちよく返答してくれた。
「3年になるかな。15の時からなので。」
「オレ、バランティスって言います。昨日この街に越してきて、今夜からダス・インスティトュートっていうBARで働くので、よかったら来てください。きっと気にいると思います。」
彼女はまたにっこり笑うと、続けて言った。
「あのお店で働くの?私もよく行くお店よ。よかったら今夜行くね。」
オレは、声を出した。
「あの・・。」
「私の名前は、マルガレータ。聞きたかったのでしょう?」
「あ、ありがとう。マルガレータ。それじゃぁ、今夜。」
妹は少し離れたところから俺を見ていた。オレはマルガレータに軽く挨拶をして妹のところへ行った。妹は冷やかしたそうな顔をオレに向けていた。
オレと妹はバターを買うために乳製品売り場へ向かった。後ろを振り返り、肉屋の方を見ると、マルガレータは楽しそうに肉を切っていた。彼女はオレの視線に気がついたようで、こちらを向いて軽く頭を下げてほほんでいた。妹はオレの肩を叩き言った。
「なに、デレデレしてんの〜。早くバター選ぼうよ。」
オレたちはとりあえず、一番安いバターを手にとってレジへ向かった。お金を払い表に出て、少し街の中を散歩することにした。小さな公園では子供達が遊んでいる。いつの間にか、時計台まで来ていた。時計は7:32と表示していた。それを見て妹は言った。
「あ!学校を見に行くんだった!」
妹は先に帰ると言って、買い物袋をオレから奪うと、走ってこの場を立ち去って行った。オレはもう少し一人で街の中をぶらついた。
少し広めの広場があった。そこには、なにもしないでぼーっとしているパンクたちが座り込んでいた。よく見ると、中にマリオがいてなにやら真剣な顔つきで話をしていた。
オレは、マリオに叫んだ。
「マリオ!」
マリオは、オレに気がついたらしく、こっちへ来いと手招きした。オレはマリオの方へ歩いて向かっていき、みんなへ自己紹介をした。相手のことを知りたいなら、まずは自分から話すのが当たり前だと思うからね。
「オレは、バランティス。マリオを同じ町から昨日きたんだ。」
一人のパンクが言った。
「マリオから聞いているよ。でも、マリオはキミと同じ町に住んでいた訳じゃないんだ。この街がちょっとやばくてね、居心地が悪くなって離れていただけなんだ。まぁ、今もやばいけど。」
「どう言うこと?」
オレは興味津々に聞いてみた。しかし、マリオが口を挟んで会話を止めた。
「いや、別に今その話をする必要はない。もう少ししたらわかる。」
オレはマリオに言った。
「マリオは秘密が多いなぁ。」
マリオはオレの目を見て言った。
「いつか全部教えてやるよ。」
パンクたちは全員で7人だった。マリオは一人ずつ紹介してくれた。
「こいつがゴリ、でもって、こいつがナック、ジョー、シド、ビリー、そしてホンミーだ。」
オレは言った。
「よろしく、でも急にはみんなの名前は覚えられないな。」
みんな笑っていた。救急車のサイレンが聞こえて来たと思ったら、隣接した狭い道路を駆け抜けて行った。マリオがみんなに言った。
「そういや、今夜からバランティはあのBARで働くんだ、暇ならみんなで行こう。」
パンクたちは頷いていた。
「もう少し街を見てくるよ。」
オレはそう言って別れた。
救急車はどうやら先ほどのスーパーマーケットに停まったらしい。オレは野次馬の人だかりに近づいて行った。担架に乗っている人物を見て思わす叫んだ。
「マルガレータ?!」
野次馬の女性がオレの方に向いて言った。
「知り合いかい?気の毒に、自殺未遂をしたらしい。」
オレは担架へ近寄った。一人の女の子が担架の横に立ち叫んでいた。
「マルガレータ!しっかりして!」
オレは叫んでる女の子に聞いた。
「一体、、なにがあった?」
女の子は泣きながらオレに言った。
「あなたは誰?」
「オレはバランティス。今さっき彼女と知り合ったばかりなんだ。キミはだれ?」
「エレナ。彼女の妹よ。。」
「なにがあった?」
「同じ職場で働いてるのだけど、仕事を終えた彼女がスタッフ用のシャワールームで手首を切って倒れていたのを私が発見して救急車を・・・。」
オレはマルガレータの顔を見た。色白の顔がもっと深い白色になっていた。担架は救急車に運び込まれると、彼女の妹も同乗した。オレは、救急車を見ていた。そして、空を見上げた。
あの日の空と同じだ。きっと、自殺がしたくなる、空、なんだな。
オレはゆっくりと歩きながら自分の住処へ戻って行くことにした。

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うや

童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。

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