十二日目 白い雪

朝起きたら、もう一面は雪に埋め尽くされていたよ。
道路も、家も、木も、全部が雪に覆われている。
いつもの風景は一転して、真っ白な世界になっていた。
こんな日は、みんなの心も透き通った白になるんだ。
毎日忙しそうに働いて、眉間にしわを寄せている人でさえも、やさしい微笑をみせる。
ぼくだって、心が少し透き通った感じがするよ。
ぼくは、ジャケットを着込んで、くろを胸元に入れて外へ出かけた。
夜の間に積もったらしく、雪はすでにやんでいて、太陽さえも顔を覗かせていたよ。
雪の結晶と言うのがあってね、小さな雪を解けないように手の上で見てみるとわかるんだ。
いろいろな形をしていて、とても面白いんだ。
時々、大きな雪も降ってきてね、そんな時は、雪の結晶がとても大きいんだ。
手のひらくらいの大きい雪だって降るんだ。
そうなると、雪が降ると言うよりも、結晶が降っている感じだね。
ぼくら子供達は、その結晶を探すことを楽しみにしているんだ。
いつもの公園につくと、みんな一生懸命に結晶を探している。
ぼくも雪を掘って、結晶を探さなくっちゃ。
くろは、ぼくの胸元から顔を出してみていた。くろはどうも寒いのは苦手のよう。
「あった!」
ぼくは結晶を手に取った、それほど大きくもないけど、うれしかった。
周りの子供達も覗きに来た。
一人の男の子がぼくに言った。
「いいなぁ。後でどんな物語か教えてよ。」
ぼくは、うなずいた。
そうそう、結晶にはね物語りが入っているんだよ。
大きな結晶には、大きな物語が入っていて、小さな結晶には小さな物語が入っているの。
ぼくのはそれほど大きくないから、ちょっぴり小さい物語かな。
きらきらと輝く結晶を覗き込んでみた。
結晶の中には草原が広がっていてそこには、一つの花が咲いていた。
その花には、一つの精霊が宿っていた。
精霊は髪が長く色白でかわいらしい女性だった。ぼくよりずっと年上だな。
そして、背中に半透明な柔らかそうな羽をはやしていた。
彼女ははとてもとても小さかったので花の上に座ったり、
葉っぱに横たわって寝たりしていました。
特になんの変化もなく、ただひたすら花と精霊だけがぼくに目に入っていた。
急にくろが鳴いた。にゃぁ。
ぼくは、その声に反応して結晶から目を離した。そして、くろを見た。
すると、さっきいたところと景色がまったく違うことに気がついた。
「あれ?ここは。」
空が異常に広く感じて、そして、ぼくの周りは巨大な草の原っぱが広がっていた。
びゅーっと風が通り過ぎたので、ぼくは風の吹くほうを見た。
今まで胸元にいたくろが寝転がって寝ていた。しかも、ぼくよりもはるかに大きい。
またびゅーっと風が吹いた。その風は、くろの寝息だったみたい。
「くすくす。」
ぼくの後ろで笑い声がした。ぼくが降りかえると、そこにはさっきまで結晶で見ていた花と精霊がいた。
花の上に彼女は座っている。
「きみは、ずーっと私を見ていたでしょう。」
「え?う。うん。」
「どんな世界から来たの?きみは羽がないの?」
「ぼくの世界では、ぼくは君より大きくって、この寝ているくろよりも大きいんだよ。そして、ここよりずっと寒くって、雪と言うのが降るんだよ。」
「雪?きれいなの?」
「うん、世界が全部真っ白になるんだ。」
「一度で良いから見てみたいなぁ。」
「ところで、ぼくはどうしてここにいるんだろう??」
「そんなこと、私に言われてもわからない。だって、どうして、私がここにいるのか君はわかる?」
「そっかぁ。わからないね。」
彼女がふわっと花から舞い降りてきた。
「ところで、さっきから気になっていたのだけど、その手に持っているものはなぁに?」
ぼくは手を見た。結晶がある。
「これが雪の結晶だよ。氷がいろいろな形にくっついて、こう言うものになって空から降ってくるんだ。この世界は暖かいのに溶けないのかなぁ?」
「この世界は終わりもなければ、始まりもないの。だから、私は永遠までもこのままだし、この世界も変わらないの。ねぇねぇ。その雪。触らせて。」
「いいよ。」
彼女は雪を手に持って、喜んだ。
「冷たい。こんなのが空から降ってくるの?」
「うん。たくさんたくさん、降ってくるよ。雪はもともと小さいのだけど。大きいのになると、そのくらいの大きさのも降ってくるんだよ。って言っても、この世界だとその大きさが普通の雪かな。」
「これがたくさん。そして、真っ白になるの?」
「なるよ。そうそう、それを覗いたらね。この世界が見えたんだ。」
そう言うと、彼女は結晶を覗きこんだ。
「あ!見えるよ。白い。白い雪!」
彼女はとてもとてもはしゃいだ。
「君も見えるよ。真っ白な世界で君は胸元に猫を入れて、そして、結晶を覗いているよ。」
「え?ぼくが結晶を覗いている?」
「うん。おもしろい。ねぇ。私にこれをくれない?」
「いいけどぉ。ぼくはどうやって、もとの世界に帰れば良いかなぁ?」
彼女は結晶を手にしてぼくの方を向いた。
「私に、この結晶をくれたから、一つだけ願い事をかなえてあげるよ。」
「え?願い事?」
「そう。願い事。」
風がまた吹いた。ぼくが降りかえると、そこに大きなくろがやっぱり寝ていた。