朝起きたら、もう一面は雪に埋め尽くされていたよ。
道路も、家も、木も、全部が雪に覆われている。
いつもの風景は一転して、真っ白な世界になっていた。
こんな日は、みんなの心も透き通った白になるんだ。
毎日忙しそうに働いて、眉間にしわを寄せている人でさえも、やさしい微笑をみせる。
ぼくだって、心が少し透き通った感じがするよ。
ぼくは、ジャケットを着込んで、くろを胸元に入れて外へ出かけた。
夜の間に積もったらしく、雪はすでにやんでいて、太陽さえも顔を覗かせていたよ。
雪の結晶と言うのがあってね、小さな雪を解けないように手の上で見てみるとわかるんだ。
いろいろな形をしていて、とても面白いんだ。
時々、大きな雪も降ってきてね、そんな時は、雪の結晶がとても大きいんだ。
手のひらくらいの大きい雪だって降るんだ。
そうなると、雪が降ると言うよりも、結晶が降っている感じだね。
ぼくら子供達は、その結晶を探すことを楽しみにしているんだ。
いつもの公園につくと、みんな一生懸命に結晶を探している。
ぼくも雪を掘って、結晶を探さなくっちゃ。
くろは、ぼくの胸元から顔を出してみていた。くろはどうも寒いのは苦手のよう。
「あった!」
ぼくは結晶を手に取った、それほど大きくもないけど、うれしかった。
周りの子供達も覗きに来た。
一人の男の子がぼくに言った。
「いいなぁ。後でどんな物語か教えてよ。」
ぼくは、うなずいた。
そうそう、結晶にはね物語りが入っているんだよ。
大きな結晶には、大きな物語が入っていて、小さな結晶には小さな物語が入っているの。
ぼくのはそれほど大きくないから、ちょっぴり小さい物語かな。
きらきらと輝く結晶を覗き込んでみた。
結晶の中には草原が広がっていてそこには、一つの花が咲いていた。
その花には、一つの精霊が宿っていた。
精霊は髪が長く色白でかわいらしい女性だった。ぼくよりずっと年上だな。
そして、背中に半透明な柔らかそうな羽をはやしていた。
彼女ははとてもとても小さかったので花の上に座ったり、
葉っぱに横たわって寝たりしていました。
特になんの変化もなく、ただひたすら花と精霊だけがぼくに目に入っていた。
急にくろが鳴いた。にゃぁ。
ぼくは、その声に反応して結晶から目を離した。そして、くろを見た。
すると、さっきいたところと景色がまったく違うことに気がついた。
「あれ?ここは。」
空が異常に広く感じて、そして、ぼくの周りは巨大な草の原っぱが広がっていた。
びゅーっと風が通り過ぎたので、ぼくは風の吹くほうを見た。
今まで胸元にいたくろが寝転がって寝ていた。しかも、ぼくよりもはるかに大きい。
またびゅーっと風が吹いた。その風は、くろの寝息だったみたい。
「くすくす。」
ぼくの後ろで笑い声がした。ぼくが降りかえると、そこにはさっきまで結晶で見ていた花と精霊がいた。
花の上に彼女は座っている。
「きみは、ずーっと私を見ていたでしょう。」
「え?う。うん。」
「どんな世界から来たの?きみは羽がないの?」
「ぼくの世界では、ぼくは君より大きくって、この寝ているくろよりも大きいんだよ。そして、ここよりずっと寒くって、雪と言うのが降るんだよ。」
「雪?きれいなの?」
「うん、世界が全部真っ白になるんだ。」
「一度で良いから見てみたいなぁ。」
「ところで、ぼくはどうしてここにいるんだろう??」
「そんなこと、私に言われてもわからない。だって、どうして、私がここにいるのか君はわかる?」
「そっかぁ。わからないね。」
彼女がふわっと花から舞い降りてきた。
「ところで、さっきから気になっていたのだけど、その手に持っているものはなぁに?」
ぼくは手を見た。結晶がある。
「これが雪の結晶だよ。氷がいろいろな形にくっついて、こう言うものになって空から降ってくるんだ。この世界は暖かいのに溶けないのかなぁ?」
「この世界は終わりもなければ、始まりもないの。だから、私は永遠までもこのままだし、この世界も変わらないの。ねぇねぇ。その雪。触らせて。」
「いいよ。」
彼女は雪を手に持って、喜んだ。
「冷たい。こんなのが空から降ってくるの?」
「うん。たくさんたくさん、降ってくるよ。雪はもともと小さいのだけど。大きいのになると、そのくらいの大きさのも降ってくるんだよ。って言っても、この世界だとその大きさが普通の雪かな。」
「これがたくさん。そして、真っ白になるの?」
「なるよ。そうそう、それを覗いたらね。この世界が見えたんだ。」
そう言うと、彼女は結晶を覗きこんだ。
「あ!見えるよ。白い。白い雪!」
彼女はとてもとてもはしゃいだ。
「君も見えるよ。真っ白な世界で君は胸元に猫を入れて、そして、結晶を覗いているよ。」
「え?ぼくが結晶を覗いている?」
「うん。おもしろい。ねぇ。私にこれをくれない?」
「いいけどぉ。ぼくはどうやって、もとの世界に帰れば良いかなぁ?」
彼女は結晶を手にしてぼくの方を向いた。
「私に、この結晶をくれたから、一つだけ願い事をかなえてあげるよ。」
「え?願い事?」
「そう。願い事。」
風がまた吹いた。ぼくが降りかえると、そこに大きなくろがやっぱり寝ていた。
投稿者: うや
童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。