次の日の昼頃、アレクスとナンシー以外はみんな帰っていった。その後、アレクスはナンシーに家で待ってろと言い出かけた。初めに行ったところは、7・11だった。
「あのさー、アルバイトしたいんだけど。」
店員は驚いた顔をした。
「あいにく、今は募集していないんですよ。」
「へ?じゃあこの紙は。」
ポケットの中から、ぼろぼろの紙を出した。アルバイト募集の紙である。確かにこの店の名前が書いてある。
「それですか。もう募集が終わったんですよ。」
「俺が嫌なんだろ。最初からそう言えよ。くそ野郎。」
そう言うと、レジのカウンターを蹴っ飛ばして出ていった。
ぶらぶらしていると、ラーメン屋の前にアルバイト募集の紙が張っている。アレクスは近寄り、紙を見た。朝10時から夜6時まで、時給900円である。中に入り、聞いてみた。
「アルバイトしたいんだけど。」
「ああ、でもその身なりではちょっと・・。接客商売だからな。」
「はーん。やっぱり、どこも同じかよ。俺以外の奴に俺の服装はだめだ、なんて言われたくないね。誰も、そんなこと決められねーよ。俺のことは、俺のことなんだよ。」
そう言うと、店を出た。1つだけ、自分にあう店がある。それは、パンクレコードショップだった。アレクスは、パンクレコードショップに行った。
店に着くと、すぐ中に入った。アレクスはCDがほしくなった。しかし、今はそんな金もない、働かなければいけない。
「おーい、アルバイトしたいんだけど。」
奥の方から、誰か来る。その人はこの間、アレクスがCDプレーヤーを売っている所を聞いた店員だった。
「ああ、この間の人だね。」
この店員は覚えていた。アレクスはもう一回言った。
「アルバイトしたいんだけど。」
店員は、アレクスをじろじろ見て言った。
「いいよ。君を雇うよ。ここには君みたいな本当のパンクスが必要だよ。」
「本当のパンクス?偽物があんのか?」
「いや、ここにはパンクスがいないんだよ。」
「じゃあ、俺はここで働らけんだな?」
「そういうことだ。まあ、今日中に履歴書持ってきてくれよ。」
「何、りれくそ・・何とかって?紙に書いてよ。」
店長は丁寧に書いた。
「あっ、その漢字にひらがな付けといて。」
「履歴書は文房具屋に売ってるから。」
「文房具屋?」
「書いておくよ。」
店長は、地図まで書いた。アレクスは他のことを聞いてみた。
「で、いつから働けばいいの?」
「近いうちになら、いつでもいいけど。」
「時間帯と時給は?」
「朝10時から夜8時まで。時給800円。」
「わかった。」
「何曜日働く?」
「あー、月から木まで。」
「オーケー、待ってるよ。」
アレクスは、じゃあな、と言うと店を出ていった。地図を見ながら文房具屋へ歩いていった。そこはやけに大きな店であった。中に入り、レジの女に尋ねた。
「ねぇ、履歴書ほしいんだけど。」
「こちらにあります。」
そう言って、アレクスを連れていった。
「ここです。」
「ありがと、これ1つちょうだい。」
「はい。」
履歴書は103円だった。アレクスは、金を持っているかどうか心配だった。ポケットの中を探った。ジャケットの右ポケットにいくらかあり、ズボンのポケットからもいくらかでてきた。レジの人に全部渡して計算してもらった。440円のおつりが来た。
「なあ、こんなにもらっていいの?」
「え?543円から103円を頂いて440円のお返しですが。」
「543円も持っていたのか。すげーだろ、俺。」
「はい。」
店員女は、にこっと笑ってアレクスを見送った。アレクスはいったん家に帰り、履歴書と言うものを見つめた。
「ナンシー、ただいま。」
「おかえり。」
「なあ、履歴書って知ってたか?」
「うん、知ってるよ。なんで?」
「いや、バイトが見つかってよ、そこの店長が履歴書もってこいって言ってんだ。」
「すごい、どこのバイト?」
「パンクCDショップ。いい所だぜー。」
「よかったねー。でもCDばっか買っちゃだめだよ。」
「あはははは。」
アレクスは一瞬どきっとした。CDを買いそうだからである。しかし、ナンシーの言うことを守ることにした。
履歴書は、3枚入っていた。アレクスは1枚をナンシーに渡し、書いてもらった。アレクスはそれを見ながら赤ペンで写した。本名の所にアレクス・ヴォミッドと書いた。後はナンシーの書いたとおりに書き写した。
趣味:ギターをひく・ポゴること と、書いた。写真の所に「セックス・ピストルズ」のシドの顔を張っておいた。一番上には
”Anarchy”
と、でかく書いた。ナンシーはそれを見て、
「ばか、赤ペンはだめ。本名をちゃんと書く。落書きをしちゃだめ。」
と、注意した。しかし、アレクスはまじめな顔をして、
「俺には俺のやり方がある。」
と、言った。そして、にこっと笑い、その紙をくしゃくしゃに折り曲げてポケットにつっこんだ。
「ナンシー。もう一回いってくる。腹が減ってきたから、飯作くっといて。」
そういうと、アレクスはお気に入りの黄色い軍隊ブーツに足を通し、針金で縛って、飛び出ていった。
CDショップに入り、叫んだ。
「履歴書を持ってきたぞー。」
でかい声だった。店長は出てきた。
「おお、もう来たか。」
アレクスはポケットからくしゃくしゃな履歴書を取り出し、店長に渡した。
「お前らしいや。いいだろう。が、本名を一応教えてくれ。」
と、店長は言った。しかたなく、アレクスは教えた。店長は、履歴書の裏に名前を書き込んで、そして、
「来週からでいいかな?」
と聞いた。
「ああ、月から木まで。朝10時からだろ。」
アレクスは確認を取ったので、帰ろうとした。その時店長はアレクスを呼び止めた。
「アレクス!店の奴等には挨拶しないのか?」
「今度でいいよ。じゃあな。」
そう言って、店を出た。
家では、ナンシーが食事を作っていた。アレクスのバイトのことで、今日はいいものを食べようと必至だった。作ったものは、白い米と味噌汁、さんまである。いい家族の料理みたいである。
アレクスは急ぎ足で家に帰ってきた。戸を開けると、いい匂いがした。1年前まであったにおいだ。そう、米のにおいだ。1人になってから暖かい白い米を炊いたことがなかったのだ。アレクスはブーツの針金をはずし、中へ飛び込んでいった。部屋の中はきれいにしてあり、机の上は光っている。ごみがなくなっている。アレクスは別に、きれいになったことに喜ばなかったが、ナンシーが飯を作っていたので感動したようにナンシーに抱きついた。
「バイトは来週からだ。」
「ほんと!!おめでとう。」
2人は喜びあった。そして、ナンシーは机の上に食い物を用意した。そして、2人は食った。アレクスはガツガツ食った。途中で一言、
「うまい。」
と言った。ナンシーはにこっと笑い、
「ありがとう。」
と言った。
食い終わるとすぐに、カオスが来た。
「おい、アレクス、お前達なんかあったのかよ。米なんか食って。」
「俺がよー、バイトすんだぜ。」
「本当かよ!どうせ1日でやめるんだろ。けんかしてよ。」
「CDショップなんだけど、そこの店長がすげーいい人なんだ。」
3人はそのバイトについて話し合うと、カオスもそこでバイトがしたくなった。1枚ごみ箱の中に残っていた履歴書をカオスにやり、それに書き方をナンシーは教えた。しかし、アレクスの時と同じで意味がなかった。赤ペンで書いた。それも太い油性ペンで書いた。
本名:カオス・マシーン と書き、
趣味:CHAOS・ドラム と書いた。写真の所にジョニー・ロットンの顔を張り付けた。カオスはそれをポケットに突っ込んで外へ飛び出していった。
カオスはCDショップへ入ると、大きな声で挨拶した。
「すんませーん。俺、カオスっていうんだけど、バイトのことで来ました。ああ、そうそう、ついでにアレクスの友人なんだけど。」
奥の方から、誰か来る。店長だ。
「アレクスが、履歴書持っていったら、バイトできるって言ってたんだけど。」
「アレクスの友達?」
「ああ、一番の友達だよ。だから、バイトさせてくれよ。」
カオスは、そう言って履歴書を渡した。アレクスの一番の友達だけあって、その履歴書は同じような感じである。店長は笑って、
「仕方がない、いいよ。本名は?」
「カオス・マシーン。」
「ほんとは?」
しかたなく、本名を教えた。とうの昔に捨てた名前を言った。
「俺の顔見ての通り、黒人と日本人のハーフだよ。」
「おもしろい奴がこの店に増えて、これからが楽しみだ。」
「じゃ、俺もアレクスと同じ時間に来るよ。よろしく。」
「オーケー、わかった。」
カオスは店を飛び出していこうとした。店長は呼び止めようとしたが、アレクスと同じ答えが返ってくると思って、やめた。 カオスは急いで、アレクスの家に行った。そして、「トータル・カオス」のかかっている家にポゴりながら入っていった。
「アレクス!やったぜ、俺も大丈夫だった!」
「やったなー!」
アレクスとカオスは手をたたきあった。そして、ポゴり始めた。その時、ナンシーは飲み物を買いに行くと言った。カオスは、ソーダ水、バナナジュースを頼み、アレクスはビールを頼んだ。ナンシーは飛び出していった。
アレクスとカオスは冷蔵庫の中を覗いてみた。なんと、いろいろなものが入っていた。ナンシーが買い物をしていたらしい。カオスは、勝手に手を入れ中にあったサラミを取り出した。外側のビニールをはぎ、そのまま食う。アレクスは食ったばかりなので食う気にはなれず、すぐ冷蔵庫を閉めた。
ナンシーが帰ってくると、みんなは、乾杯をして飲んだ。