「アガレス様がやられたぞ!退却だ!魔王ドゥルジ・ナス様に知らせるのだ!」
城内にいた魔物たちが、一斉に逃げ回る。空を飛べる魔物は窓ガラスを割って外へ飛び出して、飛べない魔物は走り回ってる。
「ねぇねぇ、勇者シオン。みんなやっつけちゃう?」
「おぃおぃ。一応、お前も魔物だろ。平和にするんじゃなかった?」
「はっ。そうだったね!」
「まったく…。忘れてたのかよ。」
「とにかく先を急ごうよ。もう魔王倒せるんじゃないかなぁ?」
ぼくと、勇者シオンは数匹の魔物を捕まえて、魔王のことを聞いたり、どこに魔王城があるの?とか聞きまわった。魔王の名前はさっきも誰かが叫んでいたけど、ドゥルジ・ナスっていうっぽい。魔王城はシバルバーと呼ばれる世界にあるみたい。シバルバーは、えっと、『恐怖の場所』っていう意味みたい、読みにくいし、とりあえず魔界でいっか。魔物のぼくでも行ったことないや。ちょっと楽しみ。ディ○ニーランドみたいなのあるかな。
魔界は大陸の東、コバンの洞窟を抜けると行けるみたい。ぼくとペッ…勇者シオンと進んでく。
「なぁ。アル。」
「なぁに?」
「そういやさ。アルって空飛べるじゃん。」
「うんうん。ビューンて飛べるよ。」
「飛べるなんでもいいんだけど、乗せて行ってくれたらちょー楽なんだけど。」
「そういえば、そだね。あはは。」
ぼくは、また変化をして、キマイラになって翼をはやすと、勇者シオンはぼくの背中に飛び乗った。ぼくは翼を羽ばたかせると空高く飛び出した。
「すげー!こんなに高いところまで来るの初めてだ!しかも速えぇ!」
「なんで、飛んでこなかったんだろね。」
「すっかり忘れてた。ヒャッハー!」
大陸の東付近にコバンの洞窟が見えてきた。その横に村がある、こんなに危ないところになんで村があるのだろう?少し離れたところに降り立って、ぼくはまた変化をして人間に姿になって、二人で村の方に向かって行った。
村に入ると、カラフルな生地がいっぱい干して並んでいる。織物かな。そして、お祭りなのかな、風変わりな衣装を身にまとった村人たちがぞろぞろと歩いているよ。一人の女性がぼくら気づいたらしくこっちに向かってきた。
ぼくは、すかさずその女性に話しかけた。
「ねぇねぇ。村人さん。ここは安全なの?」
「魔界へと繋がる洞窟があるのだけど、最近は魔物たちもこの村の近くまではこなくなったわ。隣の要塞城が襲われた時も、一部の魔物たちがこの村に進行をしてきたのだけど、勇者ヴォルスンガ様が一人で撃退したのです。それは強く惚れ惚れしたわ。先日、彼は魔物がどこからくるのかを突き止め、魔界へと繋がる洞窟へ入って行きました。それ以来、魔物が一匹も出てきません。たまに彼が戻ってくるのですが、ボロボロになっていてみんなで手当てするんです。」
勇者シオンが続けて、
「勇者…ヴォルスンガ…。だと。」
と、言う聞き返した。
「どんな風貌だった?」
「あなたは、勇者ヴォルスンガに顔立ちが似ているわね。彼は左右に斧を持っていて、どちらかというと蛮族ヴァイキングみたいな怖い感じの人なのだけど。優しくて頼りになる方なんです。」
「そうか…。ありがとう。」
一礼をすると、勇者シオンは、アルに言った。
「今の話が本当だとすると、オレのお父さんに間違いない…。」
「お酒に、カジノに、遊びくれてる、あのおバカなお父さん?」
「前に海辺の町にいた時、攻めてきたヴァイキングを倒して奪った、二本の戦利品であるオノを持っているとするば、お父さんだと思う。オノ二刀流はお父さん独自の接近術を得意をする技なんだ。」
「探しに行ってみる?と言うか、おちゃらけたお父さんが、勇者って呼ばれてたよね。すっごい気になる。」
「あいつは、勇者でもなんでもねぇよ…。」
「とりあえず洞窟行ってみようよ。」
ぼくはまた、キマイラになってビューンとひとっ飛びで洞窟の入り口まできたんだ。そしてまた、人間の姿になってぼくと勇者シオンとずんずん奥へ進んで行った。
「ねぇねぇ、勇者シオン。魔物全然いなくない?」
「だなぁ、魔界と繋がってるから、わらわら出てきそうなのになぁ。」
それにしても、長い洞窟だなぁ。いつ魔界に行けるんだろ。魔物もいないし、暇だなぁ。そう思っていた時にかなり奥の方から雄叫びと笑い声が聞こえてきた。
「グォォォ!ギャハハ!」
なんかいるみたい。
「勇者シオン、奥の方に強い殺気をビリビリと感じるんだけど。」
「急いでいってみよう!」
ぼくと勇者シオンは、ダッシュで洞窟を走り抜けて行った。そこでみた光景は、まさに阿修羅だった。バイキングの両方にツノを生やした兜をかぶり、両手に斧を持ち叫びながら魔物を両断しながら前進している。時々、ポケットからスキットル(お酒入れ)を出して飲んでは、叫んで突っ込んでいく。
「勇者シオン、あれは人間なの…?」
その声を聞くと、ぼくたちの方へ振り向いて両手に斧を構えたまま突っ込んできた。
「そこにもいたか!グォォォォ!ギャハハ!」
や、やばい人がこっちに襲いかかってくる。やばいよー。上下左右から斧が振り下ろされるのを、勇者シオンは盾と剣で受け流す。
「お、お父さん!オレだよ!シオンだよ!」
「ギャハハ!こんなところまで来れるわけがないだろ!あんなちびっこが!」
「よく見ろよ。この鎧、この剣、そして、お父さんがカジノに没収されていた盾を持っているんだぞ!」
「ん…。マジ?お前、シオンか?まじか…。盾も取り返したのか、嬢王ヤナは元気だったか。鎧ももらってきたんだな。」
「お父さん、本気で気が狂ったのかと思ったよ。」
「アハハハ!あながち間違っていないぞ。あの頃は酒にギャンブルに明け暮れてな、母さんと、お前には迷惑かけたな、すまん。見せる顔もないから、戻らずにいたんだ。今は、酒も飲めなくなってな。飲むと、今みたいにバーサーカ化しちまうんだ。」
ぼくは、気になって聞いた。
「ねぇねぇ。勇者シオンのお父さんてことは、勇者ヴォルスンガなの?」
「あー。この辺では、そんな勇者とか言われてるけどな。ちっぽけな村だけど、襲われないようにここで魔物と戦ってるんだ。」
「と言うか、シオン、こいつは誰だ?」
「こいつは、オレの仲間のアルさ。これから、このまま進んで魔王をやっつけてくる。」
「アハハハ!魔王ドゥルジ・ナスは強いぞ。オレでも歯が立たなかったわ。」
「お父さん、一緒に行く?勇者二人なんて前代未聞じゃない?」
「オレは、無理だ、バーサーカ化したらお前らも倒しかねんからな。ここで魔物が出て来ないように、戦うのみだ。行くなら行け。魔王を倒したら、オレも帰るさ。さあ、先を急げ、ここから一歩も魔物は出さん。早く行け、酒を飲むぞ。」
勇者っていうより…。魔物だよね…。気を取り直して、先に進もっかな。