次の日の朝早く、アレクスは、小便をしたくなって起きた。目の前に毛布にくるまって寝ている奴がいる。アレクスはそれを見たが気にせず、そいつの隣から、道路の方を向き小便をした。アレクスはため息をついた。振り向くと、毛布から顔を出してアレクスを見ている奴がいた。目が合ったとたんにアレクスの時間が止まった。10秒位して正気に戻ると、自分のものをしまった。そこにいたのが、女だったのだ。それも、美人の女だ。 ﹁よ、よお、はじめて、俺、アレクス。パンクなんだぜ。﹇セックス・ピストルズ﹈とか知ってる?俺達のシンボルみたいな奴等さ。﹂ アレクスは訳のわからんことを言った。女は見つめながら、笑った。 ﹁私は、北条小百合。﹂ ﹁だせ丨名前、ほ、ほじょり何とかって言いにくい名前だぜ。俺が他にもっとかっこいいの付けてやる。ナンシ丨はどおだ?いいだろ、お前は今日からナンシ丨だ。﹂ ﹁ナンシ丨?別に悪くはないけど。﹂ ﹁じゃあ決まりだ。﹂ アレクスはいつものことだが、また勝手にこの女に名前を付けた。 アレクスとナンシ丨はお互いについて話した。ナンシ丨はアレクスの話に没頭していた。パンクに興味を示していた。ナンシ丨は自分のことも話した。昨日、家出をしてきた。ナンシ丨には金持ちの親父がいる。その親父が嫌いで家を出たのだった。アレクスはもともと、金持ちの奴等が嫌いだった。金持ちのガキも嫌いだった。しかし、アレクスはなぜかナンシ丨を嫌いにはなれなかった。むしろ好感をもっていた。ナンシ丨の気持ちは、アレクスと同じだからである。ナンシ丨は金持ちは汚いことしかしないと言った。アレクスはもちろんうなずいた。しばらく話しているうちに、カオスが目を覚ました。 ﹁誰だ?この女?﹂ ﹁ナンシ丨って言うんだ、今からだけどな。今日から俺んちで暮らす。﹂ カオスは、驚いた。カオスは女の顔をまじまじと見つめて言った。 ﹁どこから来たんだ。お前、汚い格好しているけど、金持ちだろ。﹂ ﹁え?﹂ ﹁服が金持ちの服っていう感じだ。それをぼろぼろにしたんだろ。﹂ ﹁カオス、ナンシ丨は金持ちの娘だが、そこが嫌いで出てきたんだ。﹂ アレクスはカオスに説得して、ナンシ丨を仲間にしようとした。カオスはアレクスがいいと思うならばいいじゃねえのか、と笑って言った。アレクスは喜んだ。そうと決まると、ナンシ丨に似合う服を買おうと、アレクス、カオス、ナンシ丨は出かけた。ジャックはまだ寝ていた。ホ丨ムレス達も寝ている。ナンシ丨は金を持っていると言ったが、アレクスは金はいらない、その金は後で飯に使おうと言った。 3人は裏道を歩いて行った。トンネルを抜ける前に店がある。その中には、皮ジャンや、鎖や、犬の首輪などがある。アレクスは、トンネルを抜けた向こう側にナンシ丨を待たせた。アレクスとカオスは、その店に入るとすぐに、そこら辺のものをかっさらって逃げ出した。アレクスは、トンネルの方に、カオスは、新宿の目を目指して走り始めた。店員は、どっちを追えばいいかわからず、ワンワンを呼ぶことにしたがもう遅い、2人の影は見えなかった。アレクスはトンネルを走り抜けた。 ﹁ナンシ丨!走るぞ!こっちだ!﹂
そう叫ぶと2人は、新宿駅のトイレまで走った。トイレに着くと、アレクスはナンシ丨に持ってきたものを渡した。紫の皮のジャケット、黒のミニスカ丨ト、赤と黒が混ざっているストッキング、黒の軍隊ブ丨ツを持ってきていた。そして、トイレで着替えてくるように言った。ナンシ丨は、トイレに入った。 そのころ、カオスは新宿の目に着いていた。そして、今の戦利品を見て、気に入ったやつを自分に付けていた。犬の首輪と手錠を気に入った。その戦利品のじゃらじゃらという音で、ジャックは起きた。 ﹁カオス、何やってんだ?﹂ ﹁いろいろあってよ、朝から仕事だぜ。﹂ カオスはジャックに今までのことを話した。ジャックは、早くナンシ丨を見たがっていた。アレクスの好みを知りたかったのだ。アレクスは今まであまり女に興味を持っていなかったからである。アレクスのする事と言えば、盗み、やじとばし、食うことと、音楽を聴いてポゴることだけである。 ナンシ丨がトイレから出てくると、アレクスはめちゃくちゃうれしい顔をした。 ﹁かっこいいよ、ナンシ丨。﹂ ﹁ありがと。﹂ アレクスは思いっきり自慢げに歩いた。それも、やけに、にやつきながら。一般の人間共は、2人に近づこうとも、また目を向けようともしない。アレクスは歌いながら歩いた。”ONE WAY SYSTEM(ワン ウェイ システム)”の”MAGIC ROUNDABOUT(マジック・ラウンドアバウト)”である。 la la la la la la la …. (ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ….) 歌詞は﹁ラ﹂だけである。しかし、テンポがいい。ポゴるのにぴったりの﹁ラ﹂のテンポである。アレクスが歌っていると、ナンシ丨もそのテンポを感じとり、その﹁ラ﹂を歌い始めた。大きな声で、この腐った新宿駅をポゴりながら歩いた。2人の目と目がかさなったとき、大声で笑った。まるで、この世界がおかしいと笑っているようだった。笑いながら駅の外へ出て、新宿の目の方に向かった。 ジャックはもう待ちくたびれていた。昨日、残ったジャック・ダニエルを飲む。朝のダニエルはこれまたうまいと言って、飲んでいる。カオスはホ丨ムレスの奴等を起こし、さっきの戦利品を見せびらかしている。 やっと、アレクスとナンシ丨が来た。笑いながら来ている。ジャックは呼んだ。 ﹁アレクス!おせ丨ぞ!﹂ ﹁よお!ジャック、起きたか。﹂ アレクスは元気よく言った。アレクス達4人は、ナンシ丨について話した。 ナンシ丨とアレクスはカップルとなり、ナンシ丨はアレクスの家で本当に暮らすことにした。 4人は、腹が減った。朝飯を食べることにした。アレクスの家で食べるために、7・11に行き、買い物をする。アレクスはサンドイッチ、カップヌ丨ドルとマミ丨。カオスは焼きそば、おにぎりと北海道牛乳。ジャックは焼きそばパン、サンドイッチとアセロラドリンク。ナンシ丨は、食パンとイチゴジャム、午後の紅茶。を買った。4人はまじめに金を払って、食い物を手に入れた。もちろん、ナンシ丨の金を使った。おのおの袋をさげてアレクスの家に向かった。 家の前につくと、アレクスはナンシ丨に ﹁この家が、俺とお前の家だ。﹂ と言った。4人は家の中に入り、CDをつけた。﹁カオス・U.K﹂を流した。朝飯を食おうと、アレクスは鍋に水を入れ、火で焼いた。アレクスは鍋の水が煮えるまで、サンドイッチを食う。みんなはもう食い始めている。そして、食いながら、歌いながらポゴる。ジャック
は昨日のジャックダニエルを片手にこう言った。 ﹁俺達って、すげ丨ぜ。俺がちびの頃、学校の教師というのが、こんなことを言ったぜ。”一つのことに集中しなさい!2つも同時にできるわけない!”とな。でもよ、食いながら歌って、ポゴれるんだぜ、ぜって丨すげよな。﹂ みんな笑った。ジャックの声に笑った。すげ丨、馬鹿みたいな女教師のまねをしたらしい。 アレクスは、ジャックの焼きそばが、やけにおいしそうに見えた。そこで、アレクスは、鍋の中のお湯に、カップヌ丨ドルの中身を入れた。そして、中にあるお湯を全部沸騰させ、蒸発させた。そして、カップヌ丨ドルをいためる。アレクスは、焼きそばができたと言って、鍋ごと食う。あまりうまくはないが、満足そうである。 もう、昼が過ぎていたが、朝飯を食っていると、いつのまにか、シドニ丨が部屋に入ってきた。続いて、ナック、ソフィ、アンソニ丨と入ってきた。これで一応全員そろったわけだ。アレクスはみんなにナンシ丨を紹介した。そして、8人のパンクスは、気持ちよくポゴった。アレクスはギタ丨を出して弾きまくる。ナックも持ってきたベ丨スを弾く。みんなも、ギ丨タ丨やベ丨スを弾きたがる。みんなは、回し弾きした。 夜が近づいてきたとき、ナックはある紙を読んでいた。アルバイト募集の紙だった。アレクスはそれをくれと言った。ナックは紙をあげた。みんながポゴっているとき、アレクスはナンシ丨と話し合っていた。金問題である。 ﹁ナンシ丨、俺達がいっしょに暮らすと金が必要だよな。﹂ ﹁大丈夫よ、私がときどき家に戻ってお金を持ってくる。﹂ ﹁家に帰ってはだめだ、くそ野郎のところには帰るな。﹂ ﹁じゃあ、どうするの?﹂ ﹁俺達の金は、俺がなんとかする。﹂ ﹁でも、人のを取らないようにね。﹂ ﹁お前に、心配はかけさせね丨よ。俺にまかせろ。﹂ ナンシ丨は、にこっと笑った。アレクスも、笑った。2つのグラスに、マミ丨を入れて乾杯した。それを見た、カオスは、2人にやじを入れた。 ﹁お前達、何してんだ丨。﹂ アレクスを後ろから押した。アレクスは、口いっぱいに入れていたマミ丨を、ナンシ丨に吹きかけてしまった。ナンシ丨は汚いと言いながら、笑っていた。アレクスはナンシ丨に謝ると、カオスにつっかかっていった。軽く殴り合っている。いつものじゃれだ。パンクの友情と愛情表現だ。まあ、パンクには愛とか友とかいう字がないようなものだが。そういえば、情もない。金もない。何もない。 その日は、みんなアレクスの部屋で寝ることにした。