六日目 火の劇場

冬が来た。ぼくの街にも、冬が来た。外はとても寒くて、冷たい雨が降っている。
「あ、ニコラウスからのプレゼントだ!!」
長靴の中には、たくさんのチョコレートと、飴玉が入っていた。
「ママ!パパ!ニコラウスはぼくのところに来たよ!!」
ママとパパはソファーに座っていた。ママはぼくの方を見て言った。
「まぁ。ママも欲しいわぁ。」
「うーん。じゃぁ、一つだけだよ。」
ぼくは、ママにチョコレートを一つあげた。
くろはいつものように、暖炉の前で丸くなって寝ている。
ぼくも暖炉のそばによって丸くなってみた。
だって、くろがとても気持ちよさそうだったから。
火がパチパチと音を立てる。奥の火がパチっと言うと、手前の火がぱちっと言う。
なんだか、話をしているようだなぁ。
「そうさ、話をしているんだよ。」
え?くろがしゃべった?
くろは、薄目を開けて言った。
「この中では、火の劇場があるんだ。どうだい、いっしょに来るかい?」
ぼくは、くろの顔をじっと見て、そして、答えた。
「うん!行って見ようよ!」
ぼくとくろは暖炉の中に入った。中はとても大きな円形劇場になっていた。
くろは言った。
「見て!あの火がねこの劇のヒロインさ。」
ぼくは、火のヒロインを見つめた。軽やかな足取りで舞っている。
あ。一瞬、彼女と目が合ったよ。
「彼女はね、この劇場では、一番美しいと思うよ。どうだい?きれいだろう?」
くろは、ぼくの顔を覗きこみそう言った。
「う、うん。」
「名前はね、メアリーって言うんだ。声も美しいし、良い劇だよ。」
メアリーが悪い王様に連れて行かれちゃう!
早く助け出してよ!
ぼくは、心の中でそう叫んだ。
「助け出すのは君だよ。」
くろはぼくにそう言った。
「ぼくが?どうやって??」
「さぁ、勇気を出して中に入って、助け出すんだ!」
ぼくは、えいって、劇の中に入った。そして、メアリーの腕をつかむと、ぐいっと引っ張った。
ぼくはいつのまにか、劇の主人公になっていた。
円形劇場の中で、ぼくはいかにも勇敢なように悪い王様をにらんだ。
彼女をぼくの後ろに隠して言った。
「メアリーは、渡さないぞ!」
「ふふ。小僧に何ができるのだ?」
悪い王様がそう言うと、冷たい風でぼくとメアリーに襲いかかった。
すると、くろが劇に飛び込んできて、冷たい風をさえぎる魔法を出した。
「何をしているんだ!早く火の魔法を!」
「でも、どうやって火の魔法なんて出すんだい?」
「思ったとおりに出せるものさ。さぁ、やってみるんだ。」
ぼくは、右手を前に突き出して、手のひらを悪い王様に見せた。
「えい!」
ぼくの手から火が出た。冷たい風とぶつかり合っている。
「えい!」
もっと、力強く手を突き出した。そうすると、もっと、強く火が飛び出した。
冷たい風を強い火が飲み込んだ。そして、悪い王様も火で包み込んだ。
「くそぉ!」
王様はそう叫んだのち、灰になってしまった。くろはぼくの肩に飛び乗って言った。
「良くやった。」
ぼくは、ふりかえってメアリーのほうを見た。メアリーはぼくの目を見つめて言った。
「ありがとう。」
ぼくの左の頬にキスをしてくれた。観客からは盛大な拍手をもらった。
左の頬は、とても温かかった。
円形劇場の中で時間が少し止まって感じた。