冬が来た。ぼくの街にも、冬が来た。外はとても寒くて、冷たい雨が降っている。
「あ、ニコラウスからのプレゼントだ!!」
長靴の中には、たくさんのチョコレートと、飴玉が入っていた。
「ママ!パパ!ニコラウスはぼくのところに来たよ!!」
ママとパパはソファーに座っていた。ママはぼくの方を見て言った。
「まぁ。ママも欲しいわぁ。」
「うーん。じゃぁ、一つだけだよ。」
ぼくは、ママにチョコレートを一つあげた。
くろはいつものように、暖炉の前で丸くなって寝ている。
ぼくも暖炉のそばによって丸くなってみた。
だって、くろがとても気持ちよさそうだったから。
火がパチパチと音を立てる。奥の火がパチっと言うと、手前の火がぱちっと言う。
なんだか、話をしているようだなぁ。
「そうさ、話をしているんだよ。」
え?くろがしゃべった?
くろは、薄目を開けて言った。
「この中では、火の劇場があるんだ。どうだい、いっしょに来るかい?」
ぼくは、くろの顔をじっと見て、そして、答えた。
「うん!行って見ようよ!」
ぼくとくろは暖炉の中に入った。中はとても大きな円形劇場になっていた。
くろは言った。
「見て!あの火がねこの劇のヒロインさ。」
ぼくは、火のヒロインを見つめた。軽やかな足取りで舞っている。
あ。一瞬、彼女と目が合ったよ。
「彼女はね、この劇場では、一番美しいと思うよ。どうだい?きれいだろう?」
くろは、ぼくの顔を覗きこみそう言った。
「う、うん。」
「名前はね、メアリーって言うんだ。声も美しいし、良い劇だよ。」
メアリーが悪い王様に連れて行かれちゃう!
早く助け出してよ!
ぼくは、心の中でそう叫んだ。
「助け出すのは君だよ。」
くろはぼくにそう言った。
「ぼくが?どうやって??」
「さぁ、勇気を出して中に入って、助け出すんだ!」
ぼくは、えいって、劇の中に入った。そして、メアリーの腕をつかむと、ぐいっと引っ張った。
ぼくはいつのまにか、劇の主人公になっていた。
円形劇場の中で、ぼくはいかにも勇敢なように悪い王様をにらんだ。
彼女をぼくの後ろに隠して言った。
「メアリーは、渡さないぞ!」
「ふふ。小僧に何ができるのだ?」
悪い王様がそう言うと、冷たい風でぼくとメアリーに襲いかかった。
すると、くろが劇に飛び込んできて、冷たい風をさえぎる魔法を出した。
「何をしているんだ!早く火の魔法を!」
「でも、どうやって火の魔法なんて出すんだい?」
「思ったとおりに出せるものさ。さぁ、やってみるんだ。」
ぼくは、右手を前に突き出して、手のひらを悪い王様に見せた。
「えい!」
ぼくの手から火が出た。冷たい風とぶつかり合っている。
「えい!」
もっと、力強く手を突き出した。そうすると、もっと、強く火が飛び出した。
冷たい風を強い火が飲み込んだ。そして、悪い王様も火で包み込んだ。
「くそぉ!」
王様はそう叫んだのち、灰になってしまった。くろはぼくの肩に飛び乗って言った。
「良くやった。」
ぼくは、ふりかえってメアリーのほうを見た。メアリーはぼくの目を見つめて言った。
「ありがとう。」
ぼくの左の頬にキスをしてくれた。観客からは盛大な拍手をもらった。
左の頬は、とても温かかった。
円形劇場の中で時間が少し止まって感じた。