第二章 国王の予言

「ラーヴァーン!」
王室から太く大きな声が聞こえてきた。急ぎ足で鎧を身にまとった男が一人、室内に一礼をし入ってきた。王座には、黒い服に身を包み、長い黒髪に王冠を被り、顔髭を長く伸ばした男の前に膝をついて言った。
「はっ、騎士団長ラーヴァーン、ここに!」
「ラーヴァーン、顔を上げよ。よく聞くのだ。」
「はっ!」
「私は、一週間以内に殺される。」
「そんなはずはございません、この騎士団長ラーヴァーンが、命を賭けて国王陛下をお守りいたします。」
「よく聞くのだ、ラーヴァーン。私が命じることは、私を守ることではない。私のひとり娘、カテジナを、そして、この王冠を守ってくれ。」
「国王閣下、並びにお姫様の命、王冠、すべて、お守り致します。」
「知っておるだろう。この私は誰だ。」
「はっ。豊かな王国を作りし、偉大なる預言者。魔道を極め、不正と邪悪から正義を擁護する大魔導師。民を愛し、民に愛される、我らの父。」
「その私が見たのだ。未来の断片を。」
「では、その暗殺者の顔も見たのではありませんか?」
「無論、見た。お前も知っている人物だ。」
「では、今すぐにでも、その裏切り者をここへ引っ捕えて・・・」
遮るように、国王は続けて言った。
「無駄なのだ。私の予言は変えられぬ。」
「しかしながら、陛下・・。」
「見えた未来は、変えることはできない。ただ、ありがたい事に見える未来は数週間ほど先までしかない。その先に新たな未来があるはずだ。それまでの間、どんな方法でも良い、カテジナと王冠を守り抜いてくれ。」
「・・・はっ。必ずや守り抜いてみせます。」
「お前が、最後の希望なのだ。頼んだぞ。」
「はっ!」
一礼をすると、ラーヴァーンは、王室を後にした。

騎士団室へ戻ると、ラーヴァーンは、王室の警護の強化と、姫を城の隠し部屋へと案内した。
隠し扉を抜け、真っ暗な細長い廊下が続く。
ラーヴァーンは、手にロウソクを持ち歩きながら話す。
「カテジナ姫、申し訳ございません。数週間の辛抱でございます。光も入らぬこんな場所にお連れするのは、心苦しいのですが、一番安全な場所であります。」
「大丈夫よ。小さな頃によくここに忍び込んだものです。」
暗くてよく見えないが、姫は笑顔で答えたようだった。
たどり着いた部屋は、光も入らぬ暗闇でロウソクの光のみが頼りだった。チョロチョロと水の音がする。目も慣れて、見渡すと、小綺麗なベット、仕切られたお手洗いが見える。

「カテジナ姫、なにか必要なものはございますか?不用意にこちらには近づかないほうが良いので、次のお食事の際にお持ちいたします。」
カテジナは少し考えてから、
「それでは、あなたのキーストーンを貸していただけないかしら?」
「お恥ずかしいのですが、私のでよろしければお渡しいたします。」

ラーヴァーンは、甲冑の左胸の裏にはまっていたキーストーンを取り外すと、カテジナ姫に手渡した。

「これで寂しくなくなりました。それよりも、こんなにも、たのしみでしかたがないのですわ。」

キーストーンはほのかに光を放っていた。