序章

雷鳴が響き渡り、雨が滝のように古城の壁を流れ落ちる。
もう誰もいないであろう古城の前に、少女は1人で座り込み、ひたすら泣いている。
王冠を右手に握りしめたまま。

毎日、古城に訪れるお爺さんが、少女を目にし問いかけた。
「なにか悲しいことでもありましたかな。どこからきたのですかな。」
みた事もない衣装に身を包んだ少女は、何かを話している。。そう何か。。少女の言葉は、お爺さんには届かない。届かない訳ではなく、言語自体が伝わらない。
しかし、訴えている内容はお爺さんになんとなくではあるが、伝わった。

少女は誰もいない古城から出てきた。
出てきたというよりは、強制的に古城の外に放り出された。
そして、古城の中はとても恐ろしい事になっているのだ、と感じ取れた。

雷鳴と古城と土砂降りの雨。生命の存在は古城からはいっさい感じられなかった。
どれほどの恐ろしい事があったのか、お爺さんはおそるおそる古城の中を覗き込んだ。山賊などでもいるのだろうか。。

何もない。あるものは遥か過去にあった戦闘で傷ついた壁と朽ち果てた内装だけ。

1台の白い車が訪れ、運転席から背の高めな男性が傘をさしながら出てくると、後部座席に向かい、スーツ姿の女性をエスコートしながらこちらへ向かってくる。

女性は、
「すこし遅れたようね。」
と一声だすと、少女の元へ行き、また聞き慣れぬ言語で、少女に話しかける。すると少女はスーツ姿の女性にしがみつき、一生懸命、何かを伝えようとした。

背の高めな男性が、おじいさんに話しかける。
「こちらの方は、歴史、古語、遺跡などに精通した考古学研究者、ショシャナ様です。私はその助手をしておりますサムエルと申します。巻き込んでしまったようで、すみません。」
「いゃいゃ、こんな老いぼれで、何もわからんし、何もできんかったわい。あまり詮索するつもりもないが、、どうしてこんな遺跡から飛び出しできたのかね?」
「我々は一つの文献から様々な言い伝えや歴史に基づき、綿密な計算をして、少女の出現場所を探していました。」
「出現場所ですと、、?ワープなどができるとでも。。」
「ええ、ワープとはすこし違うのですが、どちらかというと、未来へ送られて来た人物で、かなり昔の人物です。」
「お話しをうかがっても、わたしには理解ができませんな。。。」
「ええ、わたし自身も、過去に残された文献のみで、今この目の前に出現するまでは、信じられませんでした。ショシャナ様が専門の研究機関を作りまして、場所と年代と日時を正確に定めることができました。」
「とにもかくにも、少女も会話ができる方がおられてよかったわい。」
「後は我々で保護します。ご協力ありがとうございました。」
お爺さんが、去って行く時に、サムエルは深くお辞儀をした。

少女の名は、カテジナと言う。