八、AIDS

 ある昼下がり、カオスは暇で、スモッグだらけの新宿をぶらぶらしていた。浮かない顔をしたサラリーマン達が行き交っている。今日も、くだらない仕事のために会社に行くんだろう。
 女が泣いている。カオスの目にその女が入った。黒人女だ。もう1人、日本人の男もいる。なにやら、もめている様子だ。女は上手に日本語を話す。
 「私を捨てるの!私がいてくれれば何もいらないって言ったのはうそだったの!」
 2人はもめていた。カオスは初めは別に気にしなかった。
 「別にお前が嫌いになったわけじゃない。別れた方がいいんだ。」
 「私は、これからどうすればいいの!」
 「知らないよ。どこか好きなところへでも行きな。」
 「ねえ、私がAIDSだからなの?」
 「関係ない。俺はもうお前とは関係ない。」
 男は女を振り払って立ち去ろうとした。女は叫んだ。
 「ひどい男よ!あれほど愛してくれたのに、私がAIDSになったと言ったとたんに別れようなんて!」
 「うるさい!あっち行け!」
 女は、泣き崩れた。カオスは一部始終を聞き立ち去っていった男の所に駆け寄り、いきなり数発殴った。
 「くそ野郎!」
 カオスはそう言った。男は鼻と口から血を流していた。
 「何するんだ!!」
 男は言った。カオスはにらみつけて怒鳴った。
 「てめーなんか人間じゃねー。くそだ!!あの女だって、AIDSになりたくてなったわけじゃねえよ。愛していればそれでいいじゃねえか!」
 「AIDSだぜ。俺は関わりたくないね。」
 そう言って、後ろを向き歩いていった。カオスは怒りがおさまらず、歩いている男の後ろから、思いっきり飛び蹴りを食らわした。男は、ドフッという音とともに前へ倒れていった。男は気絶をしている。カオスは男の背中に赤の油性ペンで、
 ”わたしは AIDSのひとを、ぶじょくしました。いまここで、おわびをさせていだだいております。それなので、わたしには、かかわらないでください。”
 と、書いた。漢字が書けないのでひらがなである。その男の頭の下には血の海ができている。気持ちよさそうに寝ている。カオスは女の方に近づいていった。女は少しカオスのことを恐がっていた。女はかわいらしい顔つきである。カオスは話しかけた。
 「恐がらなくていい、俺はお前の味方だ。どうだ、俺んちにでも来いよ、飲み物ぐらいだすよ。」
 女は涙目をこすって、カオスを見た。
 「あなたも外国人?」
 「ハーフだよ。アフリカの母ちゃんと日本の父ちゃんの間にできた。でも、俺はその2人のことをまったく知らねー。写真は1枚あるんだが、どこにいるかまったくわからない。俺が3歳の時2人は別れて、俺は捨てられたんだよ。この町の排気ガスの隣でね。今更、親を捜そうとも思わない。それに社会の目は俺に厳しかったんだぜ。今は国際化してるからいいけどな。昔はひどく人種差別を受けたぜ。それを救ってくれた奴等がいる。今もそいつらと一緒にいる。だから、今みたいな奴がいると俺はそいつをぶん殴りたくなるのさ。突然驚かしてごめんな。」
 「大丈夫。。」
 「どうだ、俺んち来いよ。明日、俺の仲間がうちに来る。」
 女は、カオスの家に行くことにした。
 カオスの家に着いた。中に入って、カオスは冷蔵庫を開ける。テキーラとレモンを出し、ナイフと小さいグラスを持って、ソファの所に持っていった。女はソファに座っている。カオスは小さいグラスにテキーラを入れた。そして、レモンを半月みたいに切ってグラスに乗せた。レモンの上に塩をかけた。1つのグラスを女に渡した。カオスはレモンにかぶりついて食い、そしてすぐにテキーラを喉へと流し込んだ。カオスは言った。
 「むしゃくしゃしている時はこれが良く効くぜ。」
 女もまねをした。飲んだ後で少しむせんでいる。
 「どうだ、うまいだろう?」
 カオスは女の顔をのぞき込む。
 「そういや、名前がまだだったよな。俺の名前はカオスって言うんだ。君は?」
 「私はアッシュリン・コーナ。あなたの本名は?」
 「そんなもん、今は必要ない。カオス・マシーンでいいんだ。ところで、アッシュリン、」
 「アッシュでいいわ。」
 「アッシュ、さっきの男なにもんだ?」
 アッシュは自分について話始めた。
 「さっきの人は、私のフィアンセだった。もともと、私は日本に留学生としてアメリカから来たの。バーに飲みに行っていた時、さっきの彼に出会った。とてもやさしい感じだった。私を心から愛していてくれていると思っていたわ。そして、私は大学をやめて、結婚をすることになったの。彼の家で今まで暮らしていたのよ。ところが、1ヶ月前、私は車にはねられるという事故にあったの。そして、入院。悲劇はそこで始まったわ。輸血の際、AIDSが血液に混じってたの。でも、医者も国も認めなかった。それはもとから私が持っていたと言って。でも、大学生だった頃、私は血液検査をしたの。その時はまったく異常はなかった。その検査後、1人の男性とも付き合ったことがなかったわ。」
 あまりにも、悲劇すぎてカオスは言葉を返すことができなかった。カオスはもういっぱいテキーラを作ってアッシュに渡した。カオスも自分に作り、それを一気に飲んだ。
 「なあ、アッシュ。お前、これからどうすんだ?」
 「行くところもない。アメリカにも帰れない。」
 「俺と一緒に暮らせよ。俺は大丈夫だぜ。」
 「ありがとう。しばらく、ここに泊まらせてもらうわ。今、行くところもないしね。」
 2人は自分たちの生活を話し合っていた。実に寂しい人生を送ってきたカオスと、今、突然悲劇になったアッシュは、次第に仲良くなっていき、最終的にはアッシュとカオスは付き合うことにした。夜遅くまで、話し合っていた。アッシュもだいぶ、笑顔を見せ始めた。2人は、ソファに丸くなって寝た。
 次の日、カオスの家にはアレクスとナンシーとナックとソフィが来た。カオスはアッシュを紹介した。昨日、知り合ったことを話した。そして、アッシュはみんなに、自分がAIDSであることを話した。しかし、みんなは、だからどうした。AIDSの奴なんかたくさんいるよな。と言って、全く気にしなかった。カオスはみんなにアッシュの話をした。みんな、怒りを見せた。その男に対して、そして、その医者、国に対して怒った。最終的にナックはこう言った。
 「AIDS、AIDSって言ったてよ。人間は人間だよ。まあ、ファシストのように、ケツのアナからくそを食う奴等は人間じゃねーけどな。」
 そして、その場に笑いがよどんだ。それ以来みんな、冗談を飛ばし合っている。でも、その冗談は、人間の中に持っている、やりきれない気持ちをすべて出していた。そうして、アッシュはみんなに言った。
 「あなた達は人間以上の人間ね。」
 アレクスは言った。
 「当たり前だ。俺達が本当の人間だぜ。俺達が世界中に増えていったら、絶対いい世界になる。」
 みんな笑った。 そして、アレクス達はバンド練習をやり始めた。いつもの「セックス・ピストルズ」の”Anarchy in the U.K.(アナーキー・イン・ザ・U.K.)”である。アッシュはソファに座り、カオスを見ていた。カオスはいつもよりも激しくたたく。その曲が終わると、カオスはアッシュに聞いた。
 「俺達のバンド最高だろ。まあ、うるさくて汚い部屋だが、ゆっくりしてくれよ。寝たけりゃ、ソファに寝てていいぜ。腹減ったら、冷蔵庫開けて、何か食ってていいからな。」
 アッシュはAIDSになってから、初めてこんなにやさしい人たちに巡り会った。アッシュは一言カオスに近寄り、
 「ありがとう。うれしい。」
 と言って、カオスの頬にキスをしようとした。しかし、アッシュはすぐ手前まで顔を近づけたが、キスをしなかった。そして、悲しい顔をした。そこへカオスがアッシュにキスをした。
 「アッシュ、AIDSなんて気にしてると、もっと病気になるぜ。キスぐらいじゃ全然平気だよ。」
 アッシュは涙を浮かべ、カオスの頬にキスをして少しほほえんだ。みんなは冷やかした。
 「くせーぞお前等。」
 アレクスはそう言った。ナンシーも言った。
 「カオス見せつけてくれるわね。」
 みんな笑った。カオスは言った。
 「お前等だって、同じ気持ちだろ。」
 まぁな。と、みんなうなずいた。カオスは色黒の顔を今は真っ赤にしていた。みんなはそれを見て、笑った。カオスは、
 「笑ってないで、次いくぞ!」
 と言って、リズムをとった。
 「ワン、トゥー、スリー、フォー。」
 みんな静かである。アレクスが言った。
 「カオス、なにやるか言わなくちゃ俺達何もできないぜ。」
 カオスはもっと赤くなった。
 「うるさい、”Got save the Queen(ゴット・セイブ・ザ・クイーン)”に決まってるだろ!」
 みんなは笑いながら、カオスのリズムに乗っていった。アッシュも笑っていた。そして、アッシュは独り言を言った。
 「この人達と一緒なら、私も生きていける。」
 ナンシーはアレクスの横に行って、ポゴっている。アッシュはそれを見て、
 「おもしろい踊りね。」
 そう言って、ナンシーの隣に行き、まねをして踊った。疲れるまで練習をした。終わると、みんなは酒を飲み、酔っぱらって寝た。

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うや

童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。

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