ぼくが、もっともっと小さかったとき、絵の学校に行っていたんだ。
たぶん3歳のときだと思う。
そのときに書いたコスモスの絵は、きっと、今までで一番じょうずだと思うよ。
今は、そんなにじょうずに書けなくなっちゃったなぁ。
でも、きっとあの学校で使っていた紙が良かったんだと思う。
だって、描いたものが実際に出てくるんだもん。
あの紙、まだ残ってないかなぁ。
ぼくは、机の引出しを引っ張り出して探した。
「うーん、どこに置いたかなぁ。」
くろがやってきた。
「なんだ、忘れたのか?」
あ、くろがしゃべった。くろは続けていった。
「去年、引出しの中身は全部たんすの中にしまっただろう?」
「あ!そうか!ありがと、くろ。」
「いえいえ。」
くろは、非常に紳士的なポーズを取った。
左足を後ろに下げて、右手を胸にあてた。
「あれ?くろ、2本の足で歩けるの?」
「もちろん。簡単なことさ。」
そう言うと、2つの足で、軽やかにステップを踏んで見せた。
「へぇ。」
「さぁ、紙を探すんだろう?」
「うん!」
ぼくは、たんすの中を探した。見覚えのある箱を取り出して中を見てみた。
ぼくはくろに言った。
「あったよ!」
紙も5枚くらい残っていた。そうだ、絵本を書こう。
くろは、ぼくのそばに来て紙を覗き込んだ。そして聞いた。
「何を書くんだい?」
「そうだなぁ、まずはここに、ぼくの家があって、その周りにはたくさんの木が生えているんだ。」
「ほぉ。」
ぼくは、紙に色鉛筆で絵を書き始めた。くろは、窓の方へ走っていった。そして、言った。
「おい!木がどんどん生えてるぞ!」
ぼくは、外を見た。そして、言った。
「そうだよ。この紙に描くとね、それが実際になってしまうんだよ。」
「すごいな・・。」
「ぼくにとっては、くろがしゃべって、2本足で歩くほうがすごいと思うけどなぁ。」
「ははは。」
くろは、笑った。そして、言った。
「ぼくにも描かせてくれないかい?」
「いいよ。何を描くんだい?」
「秘密さぁ。」
ぼくは、森のストーリーを書き始めた。
森の中に、小さな家があってそこには森で生活をする小人達が毎日、キノコを取って生活をしている。
そして、彼らを守る人、馬の体に人の上半身を持ったケンタウルス。
そこまで描いて、ぼくは一度外の景色を見た。
赤い屋根の小さな家に3人の小人達が遊んでいて、
その向こうには、ケンタウルスが一つの槍を持って歩いていた。
でも、急に、天気が悪くなってきた。そして、雷がなった。
どうなってるんだ??
ぼくは、くろの方を見た。くろは、紙の上のほうを黒くマジックペンで塗りつぶしていた。
「くろ。何を描いているんだよぉ・・。」
「あ、間違えたからマジックで塗りつぶしたんだぁ。そうしたら、なんか雲みたいになったから、
雷をかいて、その下にほら、悪魔の城を描いたよ!」
くろは、自慢げに見せた。ぼくは言った。
「だめだよ!本当に悪魔の城ができちゃうんだから!」
そう言ったとき、窓の外から大きな手が伸びてきて、くろの描いた絵を奪っていった。
「あ!消さなくっちゃいけないのに!」
ぼくは、窓の外を見た。すると、夜かと思うくらいのどんよりとした雲が雨を降らせていた。
そして、遠くには、大きな城が建っていた。くろは、ぼくに言った。
「ごめん。ごめん。」
「あー。どうすればいいのぉ。」
ぼくが困っている時、くろはもう一枚の紙に絵の続きを描いた。
その絵はケンタウルスが槍を天に向かって投げ飛ばす絵だった。
そして、もう一枚の絵を描き始めた。槍が天につくと雲が晴れ渡るという絵だった。
ぼくは、絵を見てそして、外を見た。絵のとおりに空は晴れ渡っている。
少し、ほっとした。くろは、ぼくの方に来て言った。
「さぁ、これでいいんでしょう?絵を描いたら本当になるんだからね。すばらしい絵本になったんじゃないのかなぁ。」
くろは笑っていた。そして、くろは言った。
「さぁ、ラストは君が書くと良いよ。あの城を消さなくっちゃいけないからね。」
「あーあ。せっかくの紙がもったいないなぁ。これが最後かぁ。」
ぼくは最後の紙に絵を描き始めた。
投稿者: うや
童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。