十日目 絵本

ぼくが、もっともっと小さかったとき、絵の学校に行っていたんだ。
たぶん3歳のときだと思う。
そのときに書いたコスモスの絵は、きっと、今までで一番じょうずだと思うよ。
今は、そんなにじょうずに書けなくなっちゃったなぁ。
でも、きっとあの学校で使っていた紙が良かったんだと思う。
だって、描いたものが実際に出てくるんだもん。
あの紙、まだ残ってないかなぁ。
ぼくは、机の引出しを引っ張り出して探した。
「うーん、どこに置いたかなぁ。」
くろがやってきた。
「なんだ、忘れたのか?」
あ、くろがしゃべった。くろは続けていった。
「去年、引出しの中身は全部たんすの中にしまっただろう?」
「あ!そうか!ありがと、くろ。」
「いえいえ。」
くろは、非常に紳士的なポーズを取った。
左足を後ろに下げて、右手を胸にあてた。
「あれ?くろ、2本の足で歩けるの?」
「もちろん。簡単なことさ。」
そう言うと、2つの足で、軽やかにステップを踏んで見せた。
「へぇ。」
「さぁ、紙を探すんだろう?」
「うん!」
ぼくは、たんすの中を探した。見覚えのある箱を取り出して中を見てみた。
ぼくはくろに言った。
「あったよ!」
紙も5枚くらい残っていた。そうだ、絵本を書こう。
くろは、ぼくのそばに来て紙を覗き込んだ。そして聞いた。
「何を書くんだい?」
「そうだなぁ、まずはここに、ぼくの家があって、その周りにはたくさんの木が生えているんだ。」
「ほぉ。」
ぼくは、紙に色鉛筆で絵を書き始めた。くろは、窓の方へ走っていった。そして、言った。
「おい!木がどんどん生えてるぞ!」
ぼくは、外を見た。そして、言った。
「そうだよ。この紙に描くとね、それが実際になってしまうんだよ。」
「すごいな・・。」
「ぼくにとっては、くろがしゃべって、2本足で歩くほうがすごいと思うけどなぁ。」
「ははは。」
くろは、笑った。そして、言った。
「ぼくにも描かせてくれないかい?」
「いいよ。何を描くんだい?」
「秘密さぁ。」
ぼくは、森のストーリーを書き始めた。
森の中に、小さな家があってそこには森で生活をする小人達が毎日、キノコを取って生活をしている。
そして、彼らを守る人、馬の体に人の上半身を持ったケンタウルス。
そこまで描いて、ぼくは一度外の景色を見た。
赤い屋根の小さな家に3人の小人達が遊んでいて、
その向こうには、ケンタウルスが一つの槍を持って歩いていた。
でも、急に、天気が悪くなってきた。そして、雷がなった。
どうなってるんだ??
ぼくは、くろの方を見た。くろは、紙の上のほうを黒くマジックペンで塗りつぶしていた。
「くろ。何を描いているんだよぉ・・。」
「あ、間違えたからマジックで塗りつぶしたんだぁ。そうしたら、なんか雲みたいになったから、
雷をかいて、その下にほら、悪魔の城を描いたよ!」
くろは、自慢げに見せた。ぼくは言った。
「だめだよ!本当に悪魔の城ができちゃうんだから!」
そう言ったとき、窓の外から大きな手が伸びてきて、くろの描いた絵を奪っていった。
「あ!消さなくっちゃいけないのに!」
ぼくは、窓の外を見た。すると、夜かと思うくらいのどんよりとした雲が雨を降らせていた。
そして、遠くには、大きな城が建っていた。くろは、ぼくに言った。
「ごめん。ごめん。」
「あー。どうすればいいのぉ。」
ぼくが困っている時、くろはもう一枚の紙に絵の続きを描いた。
その絵はケンタウルスが槍を天に向かって投げ飛ばす絵だった。
そして、もう一枚の絵を描き始めた。槍が天につくと雲が晴れ渡るという絵だった。
ぼくは、絵を見てそして、外を見た。絵のとおりに空は晴れ渡っている。
少し、ほっとした。くろは、ぼくの方に来て言った。
「さぁ、これでいいんでしょう?絵を描いたら本当になるんだからね。すばらしい絵本になったんじゃないのかなぁ。」
くろは笑っていた。そして、くろは言った。
「さぁ、ラストは君が書くと良いよ。あの城を消さなくっちゃいけないからね。」
「あーあ。せっかくの紙がもったいないなぁ。これが最後かぁ。」
ぼくは最後の紙に絵を描き始めた。

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うや

童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。

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