十、十二月二十三日

 「ははははは。とうとう記念日がきたぜ。」
 アレクスは朝早くに起きて笑った。ナンシーはもう朝飯の準備をしている。パンの上にバターを塗り、ハムを乗せる。その上に卵焼きを乗せる。アレクスはギターを持ち出して、食卓に行き、いすに座る。アレクスは一口食べる。そして、
 「いただきまーす。」
 と言う。口を動かしながら、ギターを弾く。ナンシーは、
 「アレクス、なに飲みたい?」
 と聞いた。アレクスは、答えた。
 「いつもの。」
 ナンシーは冷蔵庫からミルミルを出してきた。アレクスはおいしそうに飲む。また、食いながら弾く。上手に弾けるようになっていた。食い終わると、CDをつけて耳の音調整を行う。ナンシーは、弁当と飲み物を用意している。
 その頃、カオスの家にはジャックとシドニーが来た。カオスはアッシュと一緒にドラムセットを外に持ち出した。カオスはジャックとシドニーに言った。
 「お前等、すげーの持ってきたな。」
 ジャックが答えた。
 「たまには、いいんじゃねーか。」
 ジャックは自慢げに、真っ赤な大型バスをたたいている。そのバスは普通じゃなかった。屋上にもシートがあり、人が落ちないようにバスの屋上の回りには手すりがついていた。このバスの中には普通のシート座席は一番後ろにあるだけであとは壁にベンチが縛りつけて合った。中は非常に広く見える。ようするに、ロンドンバスみたいなやつだ。
 さっそく、みんなでドラムセットをバスの上に持っていった。バスとドラムセットをネジで強く止めた。それができると、4人はバスに乗り込みアレクスの家に向かった。
 アレクスの家にいち早く着いたのはスティーブだった。スティーブはいつものマイクを持ってきた。アレクスの家の中で待つことにした。スティーブは「セックス・ピストルズ」のCDを聞きながら歌う練習をしていた。次に、軽トラでナックとソフィとアンソニーが来た。軽トラには、ばかでかいスピーカが積んである。そして、1000wのアンプ、バッテリーも積んであった。アレクスとスティーブはうなった。今まで、こんなでかいものを見たことがなかったからである。アレクスは言った。
 「こんなのどっから調達するんだよ。」
 ナックは答えた。
 「買うと高いから、自分で作った。いい音出るぜ。家で実験したんだ。ジェット機みてーだった。」
 アレクス達が家に入ろうとすると、クラクションの音がした。振り返るとでかい真っ赤なバスが曲がり角を曲がってきた。アレクス達は驚いた。今年はやけにスケールがでかかったのだ。バスはアレクスの家の前に止まった。ジャックはバスのドアを開けた。プシューといってドアが開く。ジャックは自慢げに言った。
 「おはよう。諸君。ははは。」
 中からカオスとアッシュとシドニーが出てきた。そうしてみんなの持ち物をバスの中に入れ込んだ。ギター、ベース、マイクなどはバスの中に入れ、スピーカーは屋根上に持っていった。スピーカーも、ネジで締め付けた。そして、アンプとバッテリーも屋根の上にネジで止めた。マイクのスタンドは針金で縛り付けた。最後にコードをつないで完成した。 みんなはバスに乗り込んだ。ナンシーはみんなに缶ビールを渡した。そうして、10人のパンクス達はおはようの乾杯をした。飲み終わるとアレクスは代表して言った。
 「それじゃ、いっちょ、やってやろうぜ。今年も安全運転・・じゃねー、パーティを盛り上げようぜ!」
 運転するのはジャックだった。免許を持っている、いないは別に、ジャックは運転が好きだからみんなはジャックに運転させるのだった。
 このバスにはカセットデッキがついている。ナックはテープを持ってきてデッキに差し込んだ。小さな音で「トータル・カオス」が流れた。ナックは音量を上げた。窓ガラスがばりばりいっている。ジャックは軽快にバスを走らせる。この日の目的地はもちろんくその家である。パンクスのバスはゆっくりと、くその家を目指す。そう、今日はくその誕生日なのだ。みんな、バスの中でテープに合わせてポゴりながら歌っている。そして、ビールを飲む。
 とうとう、くその家の前についた。ナックは言った。
 「音楽を変えるよ。」
 ナックは、カセットを入れ替えた。そうして、外にも聞こえるように外の大きなスピーカーにコードをつないだ。外に爆発したように曲が流れる。その曲は「帰ってきたウルトラマン」だった。帰ってきたぞ帰ってきたぞウルトラマーン その曲を聴いて、10人のパンクス達は大爆笑した。バスは、家の回りを走る。アレクスはナックに聞いた。
 「お前、おもしろいの持ってんだな。」
 「いや、俺のじゃない。アンソニーのだ。」
 外にいる人間は何が起こったのかと、赤いバスを見る。そして、歌を聴いて笑っている。子ども達ははしゃぐ。まだ、ワンワンの姿は見あたらない。みんなはバスの屋根の上に登った。アレクス、カオス、スティーブ、ナック、ソフィは楽器の準備をする。ジャックは運転席に一人残って運転する。他の奴は屋根の上のいすに座り込む。演奏準備ができるとスティーブはマイクをONにした。ボーォンとスイッチの切り替えた音がする。スティーブはマイクに言った。
 「さあ、みんな始めようぜ。」
 みんな、ウオーと叫んでいる。そして、みんな声を出して歌をくそに捧げた。
 ワン、トゥー、スリー、フォー!
 ハッピーバスデー ファック ユー!
 ハッピーバスデー ファック ユー!
ハッピーバスデー あーきー!
 ハッピーバスデー ファック ユー!
 終わると、スティーブは言った。
 「俺達がお前を心の底から祝ってやるぜ!まず最初は”Got save the Queen”の日本バージョンで、”Got save the King”だ。よく聴けよアースホール。」
 カオスが合図を取り曲が始まった。みんな、はじけた。

Got save the King(王様 万歳)
It’s a Fascist regime(ファシスト政治)
He made you a moron(王様はお前を低能にしてしまった)
Potential H-bomb(有力な水素爆弾さ)
Got save the King(王様 万歳)
He ain’t no human being(王様は人間じゃない)
There ain’t no future(お先真っ暗だぜ)
In Japan dream(夢見る日本は)
No future(お先真っ暗)
No future(未来なんてない)
No future for you(お前に未来はない)……
 この歌は、もともと「セックス・ピストルズ」が帝国主義的な女王を嫌って作った歌であった。それをスティーブは日本風にしたのだ。みんな、バスの上でポゴっている。 その時、ワンワンがこっちの様子を見に来ている。アレクスはワンワンに叫ぶ。
 「今日は、めでたい誕生日だぜ。俺達に何しようってんだ?犬は犬らしくお手をしな!」
 パンクスはみんな叫んでいる。ワンワンは怒っている。しかし、まだ何もしてこない。スティーブはマイクをつかんで、
 「ほんじゃ、次の曲”Stepping Stone(ステッピング・ストーン)”」
 カオスがバスドラムをドッドッドッドッとたたくとギターとベースが入ってくる。

I,I,I,I,I’m not your stepping stone(俺は、俺は、俺はお前の踏み石じゃない)
I,I,I,I,I’m not your stepping stone(俺は、俺は、俺はお前の踏み石じゃない)
I’m trying to make your mark in society(俺はお前を社会的に成功させようと試みている)
Using all the tricks that you used on me(昔お前が俺に仕掛けたワナを駆使して)
I read about your privacy in your magazines(お前の雑誌で自分のプライバシーを読んだぜ)
The clothes you’re wearing lately causing public scenes(お前のファッションが世間の流れを作っているんだ)…..
 曲が終わろうとしてきたとき、ファシストの連中が、くそが焦げた色の四角い小さな箱みたいな車で来た。軍歌らしい音がしているが、全く聞こえない。パンクバスの方がはるかにうるさかった。曲が終わると、やっとくそ車の音が聞こえてきた。つまらない曲である。ジャックは上にいるみんなに言った。
 「あの黒いごみ箱、弱そうだな。改造したこの赤いバスの強さを見せてやろうか?」
 それを聞いたスティーブはマイクを持って叫んだ。
 「そこの豚、よけねーと丸焼きにして食べちゃうぜ。」
 その黒っぽい車はくそ音楽を流しながら言った。
 「我々はお国のためにお前達を追い出す。」
 アレクスは言った。
 「お国?そんなもんに縛られてんのか!くその国にお前達はくそで釘打たれてんのか!」
 ナックはバスの中に入りテープを取り替えた。また「帰ってきたウルトラマン」だった。ジャックはナックに言った。
 「上にあがったら、みんなにいすに座ってシートベルト締めてくれと言ってくれ。」
 「オーケー。」
 ナックは上に行くとみんなにジャックの伝言を伝えた。みんなシートベルトを締めた。ナックはジャックに大きな声で、
 「準備Ok!」
 バスのエンジン音があがる。バスはくそ車めがけて突進する。スピーカーからは「帰ってきたウルトラマン」が、大音量で流れている。スティーブはマイクを握りしめていた。それに向かって言った。
 「くさった国の操り人形達、よく聴け、これからは俺達の時代、黒の時代が始まるんだ。」
 バスと黒い車との距離は50m、黒い車は赤いバスに勝てる見込みはなく逃げ出した。しかし、バスは追う。スピードを増して追う。黒い車は急ハンドルで交わそうとした。しかし、バスも急ハンドルで付いていく。黒い車は安定感を失って、くその家の回りにある池にドボンと落ちていった。バスは減速して落ちた車の横に止まった。みんなはシートベルトをはずして立ち上がり、落ちた車を見る。みんな笑っていた。バスはすぐにそこから立ち去って、今度は家の裏口の方でやることにした。ワンワンがいるが、まだ何もしてこない。みんなのお気に入りの曲「My Way」をやることにした。スティーブが歌い始める。みんなも歌う。少し歌い始めると、機動隊の連中がバスに近づいてきた。どうやらみんなに降りろと言っているらしい。ジャックは逃げることにした。バスを動かす。豚達は催涙弾を投げてきた。みんなはバスの中に避難した。外には豚がたくさんいた。アレクスは言った。
 「しかたがねー、俺達の体の方が大切だぜ。あいつ等に捕まると棒で頭をたたき割られるぜ。帰ろう。」
 ジャックは豚を押し避けながら、逃げていった。このままではつまらないので、家に帰るまで演奏を続けることにした。他の奴はポゴる。そうして、新宿へと帰っていった。

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うや

童話、小説、その他、いろいろ妄想したり書くのが好き。最近は、わたしのトリセツ「ショコラ」の文章を担当してるよ。https://chocolat.jp/ まだまだ書くこといっぱいあるんだ。

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